2009年05月04日

外山滋比古『思考の整理学』(ちくま文庫) この記事をはてなブックマークに登録

前に立ち寄った書店で平積みにされていたので買ってしまいました。

20年以上前に書かれた文章なのですが、
非常に刺激的で面白い本だと思います。

筆者は英文学者で、高校の現代文の文章などで目にした方も
いるのではないでしょうか。


この本が今でも多くの示唆を与えてくれる理由は普段我々が、
思考、特に新しい問題を考えるための思考、
答えのない問題について考えるための思考、
そして新しい仕組みを作りだしていこうとするための思考
などについての方法論、あるいはアプローチの仕方に対して
考察する機会が学校ではほとんど無いのにもかかわらず、
実社会に出てからはそうした思考が必要とされているからなのでしょう。

ちょっと前にダニエル・ピンクという、
米副大統領の首席スピーチライターを務めたことのある方が書いた、
ハイコンセプト』(大前研一訳)
という本が出て、話題になったのですが、
そこで書いてあるエッセンスのいくつかが
既に『思考の整理学』でも指摘されています。


では何か指摘されているのかというところですが、
キーワードは「コンピューター」「比喩」です。

コンピューターは人間をはるかに凌ぐ記憶力と整理能力を持っています。
一度入力した情報はずっと保存しておくことが出来ますし、
単純な計算などでは人間の出る幕はありません。

オートメーションが進み、多くの肉体労働が機械が行うようになり、
産業革命以後多くの失業者が出たと言われていますが、
同じように今はホワイトワーカーの仕事をコンピューターが
取って代わる動きがあるのです。

そこで今までは重宝されていた、
いろんなことを知っている、知識として持っている人
というのは市場価値がほとんどなくなりつつあります。
生き字引きという言葉がありますが、
正確さは比較しないにしろ、ウィキペディアの方が
はるかに優れています。

そうした中で、教えられたことをただ頭に記憶するような能力は
さほど重要ではなくなり、むしろいくつかの情報から新しいことを
考えたりする能力が求められているのです。

前者のただ知識を頭に入れて、
試験などですぐに取り出せる能力を筆者は
グライダー能力とし、後者を飛行機能力としています。

前者のグライダーについては風が無いと空を飛べない、
つまり受動的な能力なのに対し、
後者の飛行機では自力で空を飛べるという点が対照的です。

従来の日本の詰め込み型の教育システムでは
このグライダー人間を輩出することが目的だったのですが、
現在では飛行機人間が求められているというのが筆者の主張です。

要するにコンピューターが数倍効率よく出来ることを
人間が苦労してやる必要は無いということです。
それはコンピューターに任せて、
人間はもっと高度なことをすれば良いと。

昔の官僚的なシステムの中では教えられたことに対して
忠実に解を導き出して、それを遂行していれば良かったのでしょうが、
今の時代そういった能力は必要ありません。


更にこの飛行機能力、グライダー能力について考えると、
今の時代は、正解の無い問題に対して「自分なりの答え」を出す能力
が求められているような気がします。
そのためにはそもそも問題を定義する能力が必要ですし、
その問題を解決するために必要となる情報を
自ら取捨選択する能力が必要です。
そうしたアプローチは小中高の教育では全く身につけられないのです。
問題は最初から与えられていますし、
現代文にさえ模範解答というものがありますよね。



比喩については、さきほどグライダーと飛行機の話がありましたが、
これ自体が比喩です。
そして、比喩を使うことによって考えが整理されるというのは
良くある話ですし、非常に有効なアプローチ方法であるわけです。
外山さんの文章では必ずと言っていいほど比喩が登場します。
そのため論理構成は非常にシンプルで、しかも分かりやすいのです。

ダニエル・ピンクさんもこの比喩を作る能力というのは重要視しています。


さて、他にも思考の整理学の中には
「考えを寝かせる(発酵させる)」、「忘れる、すてることの重要性」
などについても書かれているので、非常に面白いです。


こうしたことを意識して思考するのと、
しないのとでは大きな違いがあると思います。
posted by Jack at 14:56 | Comment(0) | TrackBack(0) | 批評〜書籍・映画・ドラマ〜 | このエントリーを含むはてなブックマーク |
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