2007年12月14日

慰安婦問題を考える。 この記事をはてなブックマークに登録

まずは13日付けのニュースより。

欧州も慰安婦決議へ 日本政府に公式謝罪要求(産経ニュース)
第二次大戦中の旧日本軍の従軍慰安婦問題をめぐり、日本政府に公式謝罪などを求める決議案が12日、欧州連合(EU)の欧州議会(フランス・ストラスブール)本会議に上程された。13日夕にも討議の上、採決を行う予定。同種の決議は7月に米下院、11月にオランダ、カナダ両国の下院で採択されている。

<中略>

決議案は当時の日本政府が慰安婦徴用に関与したと指摘し「20世紀最大の人身売買の1つ」で、人権保障に関する条約などに違反していると非難。日本政府は歴史的、法的な責任を取り、公式に謝罪し、すべての元慰安婦の女性と遺族らに賠償するべきだと求めた。

 また、1993年の河野洋平官房長官(当時)、94年の村山富市首相(同)の談話などに言及した上で「過去数年間、日本の政治家らの一部に政府見解を希薄化、無効化する声がある」と指摘。学校教育でも悲劇を矮小(わいしょう)化する動きがあると批判し、是正を要求している。(共同)

共同通信がニュース元ですが、産経ニュースの方がより詳しいのでそちらから引用しました。

当時の慰安婦の事件に全く関与の無いカナダで決議がされたと思いきや(参照1参照2<英語>)、
今度は欧州会議で決議される可能性が出てきました。これについて嘆いても
仕方の無いことなのでではどうしてこのような状況になってしまったのかを
見ていくことにしましょう。

最初に今年七月の下旬、アメリカの下院で慰安婦決議案が採択されました。
慰安婦決議案採択 米下院(7月31日イザニュースより。)
米下院は30日の本会議で、慰安婦問題に関する対日非難決議案を採択した。決議に法的拘束力はないが、日本政府に公式謝罪を求めている。

<中略>

慰安婦問題をめぐっては、安倍晋三首相が4月末に訪米した際、ペロシ議長ら議会指導者との会談で、「人間として首相として心から同情している。そういう状況に置かれたことに申し訳ない思いだ」と語った。
 ブッシュ大統領は首脳会談後の共同記者会見で、「首相の謝罪を受け入れる」と首相の対応に理解を示しており、日米政府間では事実上解決済みとなっている。

これをきっかけとしてオランダ、カナダで決議が可決され、
今回欧州議会においてすらも可決されようとしています。

この動きは国内にだけ目を向けているとなかなか気づかないのですが、
国外の流れは非常に日本にとって悪いものとなっています。

そこで、どうしてこのような現状になってしまったのかを
国内と国外とのズレという側面から考えてみようと思います。


慰安婦という言葉について

ではまず慰安婦という言葉なのですが、Wikipediaによると(参考程度)、
慰安婦(いあんふ)とは日中戦争や太平洋戦争当時に、 慰安所と呼ばれた施設で旧日本軍の軍人の性行為の相手になった婦女の総称である。戦後、人により従軍慰安婦とも呼ばれる。制度としては、軍相手の「管理売春」という商行為であったが、実態については、慰安婦達に報酬が払われていたとはいえ過酷な性労働を強いた性的な奴隷に等しいとする主張もあり、旧日本軍のケースでは慰安婦を強制連行したのか否か、強制的なものであったか等の点に疑問が呈されており、日本の国としての責任や女性の人権などの観点をめぐって、今日まで、政治的・社会的に大きな議論を呼ぶ問題となっている。

ということです。

英語ではComfort Womanなどと訳される場合が多いです。
しかし時にはSex Slave(性奴隷)などと呼ばれています。
この言葉の問題は結構重要だと思うのですが、あまり慰安婦に関して知識の無い人が
Sex Slaveと聞けば誤解を招く表現です。


では議論されている項目についてですが、慰安婦は強制であったか、
そして、どれくらいの数の慰安婦がいたのか
この二つについて考えることが必要だと思います。


強制の有無

強制があったのかどうかが議論の大きな争点となっているのですが、
僕は少なくともある程度の強制はあったのではないかと思っています。
しかしそれは当時の状況などを考えれば別に異状では無かったはずです。
(というよりも戦時下というのがすでに異常な状況であった訳で。)

しかしでは軍による命令があったとするような文書などの証拠は
見つかっていないようなので(あったとしても残されないでしょう)、
あとは慰安婦や元兵士の証言に基づいて考えるしかありません。

1993年に河野洋平内閣官房長官(当時)が俗に「河野談話」と呼ばれる
慰安婦についての調査発表を行い、軍による強制性を認めました。
そして同年、村山富市首相(当時)が同様に謝罪しました。

また、狭義の強制性と広義の強制性という言葉の使い分けが
この論争の間で生じたのですが、これはあまり海外へは伝わらなかったようです。

強制性についての安倍元首相の対応

米下院でこの問題が取り上げられた時に、安倍元首相は狭義での強制性を否定する
などの言説を取りました。ここらへんは詳しく分からないのですが、
決議案に否定的だった安倍元首相は証拠が無い面を強調していましたが、
それが海外大手新聞紙によって強制が無い(つまり広義、狭義に関係なくNOである)
というように報じられ、国外の反発を強めることになってしまったようです。
(これについては、
[政治]従軍慰安婦問題:「狭義の強制性」表現を乱用して国際的誤解を生じるミスを犯している安倍政権
が詳しいので参考にさせていただきました。)

また、これは古森義久氏の記事(参照)でも、
安倍氏は従来、慰安婦問題に対してはわりに強い姿勢をとっていた。日本の非を事実調査の徹底を待たずにあっさりと認めて謝ってしまった「河野談話」には批判的だった。米国議会で慰安婦に関連して日本に謝罪を求める決議案が出されてすぐの今年春、当時の安倍首相は、いわゆる「狭義の強制性」を否定した。その否定が「日本軍の関与までを否定した」という米国大手紙などの虚報となって米側に伝わり、議会などでの反発を強めた。

のように端的にまとめられている通りです。

そしてワシントンポスト(3月23日)には、"Shinzo Abe's Double Talk"として批判されています。
これは二枚舌などと訳されているようですが、直訳すると
わけのわからない言説などという意味です。

この中で安倍晋三首相(当時)が北朝鮮に対しては拉致問題解決を訴えているのに、
自国で起きた慰安婦問題(文章内では数十万人にも及ぶ女性の誘拐、
レイプ、性奴隷化などと書かれています。)
を棚上げにしているとはどういうことだという批判が展開されます。

僕としては、これは拉致が戦後であり、慰安婦は戦時下の問題なので、
それを一緒にして論じている方が「わけのわからない話」だと思うのですが、
これだけに限らず安倍元首相の悪いイメージは加速していきました。
やはり一度河野談話によって謝罪がされているのにもかかわらず
それを覆したように受け取られたのがまずかったようです。
(これについては元外交官の佐藤優氏が外務省の失敗を批判しています。:参照

しかしここでさらにまた問題が起こりました。
先にイザニュースで引用したように4月末の時点で安倍元首相が
「人間として首相として心から同情している。そういう状況に置かれた
ことに申し訳ない思いだ」と述べたのが、外国の新聞では軍による強制を認めた
という報道になりました。これはどうやら誤訳(?)による報道のようです。
(参考:安倍首相「慰安婦への強制性」認めた? 英訳記事は誤報なのか
(さらにインタビューの全文があったので参考までに。)

そしてこの後は米下院、オランダ、カナダで可決され、
最初に出たニュースへと日本の国際的な立場はますます悪化していきました。


慰安婦の総数

被害者の数については多説あり、数千人とするものから、
数十万とするものまであります。

日本では多くても4万人以下とする秦郁彦氏の説や8万から20万人とする
吉見義明氏の説などが主だそうです(Wikipediaを参照しましたので参考程度に。)

しかし海外では主に数十万とする説と、20万とする説の二つで
固まっているようです。これは慰安婦問題に対して批判的な側からすれば
多い数を主張するのが当然なのかもしれません。
先に参照2で挙げたAFPニュースでは、
Opposition New Democrat MP Olivia Chow, who spearheaded the initiative, told AFP: "For me, this isn't crimes against 200,000 women. It's crimes against humanity and all of the world's citizens have a responsibility to speak out against it."(この決議案を先頭立って進めてきた野党・新民主党のオリビア=チャウ議員は、「私にとってこれは20万人の女性に対する犯罪ではなく、人道に対する罪です。世界中の市民はこれを非難する義務があるでしょう。」)

と言う風に使われていますし、先のワシントンポストでは、
数十万人というのが持ち出されています。

また、20万人というのは国連人権委員会に提出されたマクドゥーガル報告書
に記載されているようなので、これが国際的な根拠となっているのかもしれません。
(再びWikipediaを参照いたしました。)
しかし日本国内ですら総数で意見が分かれているのにもかかわらず
このように一方的な解釈がされているのは問題です。


このようなズレがどのように起こってしまったのかについてですが、
個人的にはまず日本人の議論(論文など)が英訳されることが少なく、
国外へ十分に議論内容が知られていないことがあり、
それと相まって北米の中国系が世論形成の主導権を握ったこと
があるのではないかと考えています。
中国系によるロビー活動はカナダ、米両国で見え隠れしています。

また、慰安婦問題を現在の視点から見て女性の人権侵害だと
主張する考えが登場し、アムネスティインターナショナルや
日弁連などのいわゆる人権団体が補償を求めている動きもあるのでは
ないでしょうか。

欧州の最近の人権問題への関心もあるのでしょう。
死刑問題に関して、EU内では廃止、あるいは実施しないという
流れになっています。


では海外での日本における慰安婦問題に関する考えを整理しましょう。

・日本における慰安婦問題は軍の強制である。
・人権上極めて罪の重い行いであった(被害者数の多さも加味しているはずです)。
・日本の謝罪は十分では無い(これは安倍元首相の件も関わってくると思いますが)。
・被害者への賠償をすべきだ。
・教育においても慰安婦をしっかりと認識する必要がある。(一部の主張でしょう。)

ということになります。


現状を踏まえた上での日本の今後のあり方とは

ここまで書いてみて、ではこれからどうすれば良いのか
ということですが、こうなってしまった以上、日本が反発すればするほど
世界の反感を買ってしまうことになりそうです。
今の世界における日本の慰安婦問題の認識がこのように形成されて
しまった以上、河野談話を撤回する訳にもいかないでしょう。
謝罪に関して言えば、しっかりと筋を通し、その上で
慰安婦における日本の認識を主張していく必要があります。


補償について、僕はよく分かりません。

しかし日本が補償をしてこなかったかというとそうではありません。
本来的な戦争における日本の行為に対する国家間の戦争賠償と補償は、
終了しています。(サンフランシスコ条約と個々の二国間条約により。)
また、慰安婦についてもアジア女性基金が補償を行ってきました。
(※2007年3月に解散)

また、今の人権意識の中で
戦時下という特殊な状況における日本軍の行いを扱うのはどうなのか
という疑問も残ります。
そして、もしこれを法的に裁くとなると(民事訴訟になるのでしょうか)
人道に対する罪などは事後法(戦後に作られた法)ですから、
戦時中の行いにまで遡って裁くというのはおかしい(法の不遡及である)
のではないかとも思います。


また、中国と韓国に関してはそれぞれ、
自国の個人による賠償請求権を放棄しています。
中国は1972年の日中共同宣言によって(参照)、
そして韓国は1965年の日韓基本条約と共に定められた諸協定のうち、
日韓請求権並びに経済協力協定によって(参照)定められています。
(中国の場合は個人補償までは明記していないので微妙ですが、
すでに中国人による個人補償請求が裁判で否決されたことがあります。)

もちろん国や機関が自発的に賠償することは可能なのでしょうが、
戦時中のことについては一応の決着を見ているので、
それはしっかりと認識しておく必要があるでしょう。

個人の賠償ははっきり言えばきりがありません。

しかし慰安婦が今も生存していることには変わりませんし、
彼女らに対する謝罪の気持ちを忘れてはならないし、
その存在を否定するべきではありません。


これを踏まえてしっかりとした外交を築いていかなければ、
これからもいつまで経っても日本は謝っていないと言われて
しまうし、非難の声は止みません。もちろんロビー活動などに
対してもきちんとした対応をする必要があるでしょう。
あまりにも日本は海外に対するメッセージ発信を怠ってきたように
思います。あるいはそうした意識が希薄だったのではないでしょうか。

僕は人権団体の動きについては今までは肯定的でしたが、
今回のように国家の利益(今回は国のイメージ、心象)と反する場合
(あるいは片方を立てればもう片方が立たないというトレードオフの関係)
もあるかと思うと複雑な気持ちでした。これについては中々難しいです。


以上長くなりましたが(おそらく今までで一番長い文章でしょう。)
事実誤認などがあれば指摘お願いします。コメントもお待ちしています。

2007年12月14日ノルウェーにて記。


追記:ここでは直接触れませんでしたが、
池田信夫氏が自身のブログで扱われている慰安婦問題について
読んだことが、この問題について考えるひとつのきっかけとなっています。

また、Wikipediaをあまり使いたくないと考えていますが、
新聞などや書籍にあたることが出来ないので、参考として
使いました。
posted by Jack at 12:41 | Comment(0) | TrackBack(1) | 時事・社会 | このエントリーを含むはてなブックマーク |

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